世界史ときどき語学のち旅

歴史と言語を予習して旅に出る記録。西安からイスタンブールまで陸路で旅したい。

トルコ旅行のためにトルコ語を勉強した話(教科書/教材など)

2023年のゴールデンウィークにトルコに旅行に行きました。トルコでは一部の観光地を除いて英語があまり通じないと聞いていたので、せっかくの機会ということでトルコ語を少し独学で勉強してから行きました*1

この記事では、どのような本や教材でトルコ語を学んだかと、実際にトルコに行ってみてどうだったかをざっくり書いてみたいと思います。

なお、この旅行を決めた時点では、私のトルコ語力は皆無でした。(Merhabaしか知らなかった。)また、本稿執筆時点のトルコ語力も初歩文法の域を超えません。(ニューエクスプレス+にほんの少し毛が生えた程度です。)従って、以下の記述、特に本や教材に対するコメントは、あくまで超初級者(しかも独学のため、誤りに対するフィードバックを得る機会に乏しい。)のコメントとして割り引いて捉えていただければと思います。誤りにお気づきになった場合は、ご指摘いただければ幸いです。

トルコ旅行そのもののまとめはこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

読んだ本/教材

私の場合は以下の方針で進めました。

  • いきなりたくさんの情報を入れると処理が追い付かないので、少しずつ内容を増やしていく/レベルを上げていく : 「最初は雰囲気をつかんだり慣れたりして、段々と文法的にきっちりした説明に進む」という進め方を念頭においています。
  • 旅行用とは言え、パターンを暗記するだけでなく、(最終的には)初歩的な文法は押さえておきたい : パターンを暗記するような勉強法が苦手で、ルールを陽に示してもらった方が納得しやすいなー、という好みの問題です。

その上で、だいたい以下の順番(一部並行)で読みました*2

言語学入門 : これから始める人のための入門書

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トルコ語の勉強のために読んだわけではないのですが、たまたま事前にこの本(の音声学の部分)を読んでいたおかげで、トルコ語母音調和の説明がすとんと腑に落ちました。

トルコ語母音調和は、前舌/後舌と円唇/非円唇の2軸が分かれば「せやな」とすぐに納得できたのですが、事前知識なしだと「???」になっていたかもしれません。

トルコ語のしくみ《新版》

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まえがきに

本格的な文法の本ではありません. 入門書ともちょっと違います. トルコ語のことを全く知らない人, これからトルコ語を勉強してみようかなと何となく考えていらっしゃる方を想定して, ほんとうに大まかなポイントだけをピックアップしました. つまり, 入門書への橋渡しの本です.

とあり、私も入門書(次に書くニューエクスプレス+)の前に読みました。

いくつもの例文からしくみを読者に類推させながら話を進める書き方で、少しずつトルコ語のしくみに親しんでいくことができる本でした。 特に、この本を読んだおかげで、「トルコ語は語の本体に, 「部品」がいくつかくっついてできあがる」(p.32より引用)という特徴に慣れることができ、入門書を読むときのハードルが大幅に下がったように思います。

ニューエクスプレスプラス トルコ語

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言わずと知れた(?)白水社の有名シリーズ。会話、文法、語彙がバランスよく織り込まれており、読み進める(もちろん練習問題も解き進める)ことで、トルコ語が全く分からない状態から、少しわかるかも?という状態になれたのではないかと思います。

また、実際にトルコに旅行した後で振り返ってみると、会話文の部分は実践的なものが多いように感じました。水を買うときに"Büyük mü, küçük mü?"と聞かれて、「おお、本でやったまんまのやりとりだ!」と少し感動しました。

一方、会話、文法、語彙がミックスされているので、後から文法について復習したり調べようとしたりするときにはやや向かない気もしました*3。そのような場合は、以下の「東京外国語大学言語モジュール」の文法モジュールや、「しっかり学ぶトルコ語」を利用しました。

東京外国語大学言語モジュール

www.coelang.tufs.ac.jp

ニューエクスプレスプラス トルコ語と併用しました。 具体的には、ニューエクスプレスプラスを進めると同時に、文法モジュールの対応する部分を読んで文法の理解を補強し、文法モジュールの練習問題を解く、という進め方で利用しました。

ニューエクスプレスプラスよりも少し文法の説明が詳しいので、理解を助けるのにちょうどよかったと思います。また、こちらのサイトの練習問題だと、間違えた瞬間にその現実を容赦なく突きつけられるので、学習効果が高い気がします(←

文法モジュール以外はあまり触らなかったのですが、今思えば、旅行前に会話モジュールや語彙モジュールを少しやってみても良かったかもしれません。

しっかり学ぶトルコ語

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ニューエクスプレスプラス(と東京外国語大学言語モジュールの文法モジュールの対応部分)を一通り読んだあとに、文法の理解の整理に利用しました。ただし、通読はしておらず、時間の都合(と前提知識の不足)で、半分くらい(「形容詞のはなし」あたりまで。)までしか読めていません。 章立ては(冒頭を除けば)「名詞のはなし」「動詞のはなし」「形容詞のはなし」「副詞のはなし」など文法事項別になっていて、活用は表などに簡潔にまとめられています。

なお、はじめてトルコ語を学ぶのに適した本ではないと思います。会話例はほぼないですし、活用の表も母音調和の全パターンを書いたりはしていないです。情報密度が高いので、私からすると初見の内容をこの本で学ぶのは難しそうです*4

その裏返しとして、既にある程度学習した人が知識の整理をするのにとても良い本だと思います。情報密度が高いと書いたのですが、例文は豊富、しかもほぼ音声つきです。 また、文法解説は上に書いた教材よりも詳しく、新しい発見もいくつかあり興味深かったです*5*6

  • p.92の「名詞による名詞の修飾」 : 名詞による名詞の修飾には3パターンあって、属格の助詞*7がつかない場合とつく場合とで意味合いが異なる、というのを初めて知りました。(e.g.)çocuk doktorとçocuk doktoruは別の意味になる。前者は、子供医者(子供=医者、という状況)、後者は小児科医。確かにgoogle画像検索で引用符をつけて検索してみると、前者は子供が白衣を着ている画像も出てくるのに対し、後者は子供を医者が診ている画像が出てきました。
  • 2章の動詞の活用表(p.146) : ニューエクスプレスプラスでは動詞の活用を「進行形」「未来形」「完了形」など全て同列の「~形」という形で分類していましたが、「しっかり学ぶトルコ語」では相と時制を区別した上で、活用のパターンを表にまとめてあるので、理解がすっきりしました。

細かい文法の話ばかり書いてしまいましたが、「はじめるまえに」には「旅行で使える表現」と題した章もあり、旅行で使いそうな表現がたくさんまとめられています。このへんを旅行前に頭に入れておくと良さそうです。 私は十分には覚えられませんでしたが、数詞について簡潔にまとめた表(p.54)がかなり役に立ちました。具体的には、写真に撮ってスマホのロック画面/ホーム画面にしておき、スマホを手に取るたびに見て旅行前に覚えました。

以上の通り、使い方を間違えなければとても良い本だと思うのですが、語学書の本題とはあまり関係がない部分で少し引っ掛かったところもありました : トルコ語について「その使用地域は、東は中国から西はドイツまで及びます」「実質的に同一言語であるチュルク語」、日本語との関係で「両言語を研究する言語学者達は、トルコ語と日本語が同じ語族に属するということを考えています」等はもしかして筆が滑った...?(素人の感想です)

旅の指さし会話帳18トルコ[第二版]

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旅行で使う語彙や、定型フレーズのストックを増やすために利用しました。ただし、通読はしておらず、使いそうな場面やジャンルの語彙が載っているページをぱらぱら眺めるにとどまります。

一応現地にも持っていきましたが、現地では出番はありませんでした(自力で話せない/理解できないようなケースでは、google翻訳を利用しました。)。

実践編

以上の通り予習した上で、実際にトルコに行ってみてどうだったか、という話を書いてみます。

トルコ語ができて助かった場面

  • 場所を訊く : 基本中の基本。google mapsのおかげで観光名所の場所を訊く機会は少なく、主に建物内で利用する機会が多かったです。(e.g.)トイレの場所、空港で電車の駅に向かう出口はどこか、など。
  • 電車、バス、ドルムシュの行き先を訊く : 長距離バスは行き先を書いた紙がバス正面に貼られているのですが、確認のため訊くこともありました。あと、トルコ国鉄(TCDD)のセルチュク駅は方面に依らずホームが一緒なので、「なんか乗る時間より少し早くに電車が来てるけど、これ方面が違う気がする...?」というときに確認したりしました。(逆方面の電車でした。乗らなくてよかった。)
  • オトガルで乗り場番号を訊く : 大規模なオトガルでは乗り場の数も多いので、乗り場前でバスを待つためにカウンターで乗り場番号を訊きました。なお、それだけ大規模なオトガルならカウンターでは英語も通じる気もしますが、試していないのでわからないです。
  • 値段を訊く : 買い物のときやドルムシュの運賃支払い時など。買い物のときは電卓で数字を示してくださることもあったのですが、ドルムシュだと口頭だけのことが多い(そして主要停車地を除いて運賃が書かれていない)ので、数詞を覚えていて助かりました。
  • レストランで量を確認する/半分にする : 食事は量が多いと聞いていたので、量を訊いて多そうなら半分にしてもらうこともありました(昨年のイラン旅行では「食事の量が多いけど残すのもなと思って食べすぎた結果お腹を壊す」という失敗をしたので...。)。
  • 料理の食材の説明 : ロカンタやチョルバジュでは、ショーケースに入った料理の実物を見せてくださりながら、どんな食材が入っているかの説明を親切にもしてくださることがありました。食材の語彙(といっても主に鶏肉、ラム肉、など肉の種類)を覚えていったので、ある程度は理解できました。

また、役に立った話ではないのですが、現地の方どうしが話している言葉がほんの少しでも分かるのは嬉しかったです。電話で話している人が"Tamam"を連発したり、走り出そうとした子供に母親と思しき人が"Gitme! Araba geliyor."と言ったり。

逆にトルコ語できないな...と思った場面

ロカンタなどで地元の方(たぶん)がトルコ語で話しかけてきてくださる機会もあったのですが、簡単な挨拶と自己紹介以外、雑談は難しかったです。語彙力が圧倒的に足りませんでした(このへん、文法を整理している余裕があったら単語を暗記すべきだった感はありますが、ルールが分かっていないと落ち着かないので。。。)。

ただ、google翻訳のおかげで少しお話することはできました。技術の力は偉大。

英語が通じたところ

英語が通じたところも記載しておきます :

  • カッパドキア(主にギョレメ周辺)では、タクシードライバーやレストランのスタッフの方は皆初手から英語で話しかけてきました。
  • また、イスタンブールのスルタンアフメト地区でも、レストランのスタッフの方や客引きいろいろ(たぶん絨毯売り?)も同様です。
  • ホテルは基本的には英語対応可のホテルを選んだので、フロントでは英語が通じました。ただ、たまに英語ができない方がいるときもあるので、そのときはトルコ語を使用しました。

また、デニズリに向かうトルコ国鉄(TCDD)で隣になった大学生の方や、コンヤのオトガルでバスの遅延を教えてくださったご婦人など、観光業関連以外の方と英語で雑談する機会もありました。

これらのケース以外は、なるべくトルコ語で話しかけるようにしていたので、英語の通用度はわかりません。

最後に

初めてのトルコ旅行でしたが、トルコ語を少し話せるだけで、旅がスムーズに進みやすくなったと思います。

今後も、英語が通じない地域を旅行する際には、事前に現地の言語を予習してから行きたいと考えています。(と言いつつ、トルコ語は日本語話者にとってハードルが低いようなので、調子に乗っているだけの可能性もあります。この先スラヴ系言語やアラビア語を話す地域に旅することになって、この発言を後悔する日が来るかもしれません...。)

*1:今回の旅行では海外からの観光客があまり多くない地域にも行くことにしていたためです。

*2:逆に、検討したけど本格的に手を付けなかった教材についてもメモ : duolingoは少しやってみたのですが、文法についてはルールを陽に示すような方式ではないようで、私には向いていませんでした。ただ、語彙を増やすのには良いかもしれません。「世界の言語シリーズ トルコ語」は、少なくとも立ち読みした限りだと文法の理解に良さそうでした(文法の説明の後にシンプルな例文が複数通り書かれるなど。)。ただ、誤植がとても多いというamazonレビューに恐れをなして手を出せませんでした。。。

*3:念のため補足すると、この本自身は入門書として書かれていると思うので、こういったリファレンス的な使い方に向いていないこと自体は全くもって問題ではないと思います。どちらかというと使い方の問題ですね。

*4:動詞の態(受動態とか使役態とか)の話は私は未習部分が多く、この本だけだと学習が難しそうでした。

*5:上に書いた教材にも書いてあって私が見逃しているだけの可能性もありますが。。。

*6:このへんに入ると旅行での実用性にはあんまり関係しないと思うのですが、文法の話が好きなので、ついつい気になってしまうのでした。

*7:本やサイトによって語尾、接尾辞、などなど用語が異なるのですが、ここでは「しっかり学ぶトルコ語」の用語に従います。