2023年12月の西安の旅で西安碑林博物館を訪れることにしたので、予習として中国書道の本をいくつか読みました。 この記事では、そのとき読んだ本のメモを記載します。
なお、本文に入る前に注意 : 浅学故か、私は書の芸術的側面を解していません。「漢の隷書かっこいいなー」や「北宋徽宗の痩金体いいなー」などと思うことはあるのですが、草書の芸術性は理解していません*1。
そのため、以下のメモは「書道はさっぱりわからない素人が、碑林を観光するにあたってその歴史的背景を知りたいと考えて中国書道史の本を(表面的に)読んだ感想」にすぎません。
西安碑林博物館を訪れたときの旅行記はこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com
要約
- 芸術面よりも歴史的背景やエピソードなどに興味がある場合は「中国書道の至宝 書と人をめぐる三千年の物語」が適していそう(ただし内容の正確性は不明。)。西安碑林博物館の石碑も7個扱われている。
- 西安碑林博物館の予習としては、博物館の公式weiboに多数の解説動画があり有用(ただし中国語)。
すぐわかる中国の書 古代~清時代の名筆 改訂版
東京美術の「すぐわかる」シリーズの一冊です。見開き2ページで1つの作品を扱う(右が解説、左が図版)構成になっており、解説では書家の生涯や歴史的背景が述べられ、図版のページでは釈文や鑑賞のポイントなどが簡潔に記されています。
冒頭には親切にも「書を味わう」として鑑賞のための心構えが述べられている(「文字を読むべからず」「「臨書」してみよう」など)のですが、残念ながら私にはこれらを踏まえても、書の芸術的側面はよくわかりませんでした。
ただ、重要な作品や書家などの固有名詞をおさえたり、書体の変遷を知ることができたりしたので、初歩の知識を身に着けるという意味では、読んでよかったと思います。
中国書道の至宝 書と人をめぐる三千年の物語
CCTV(中国中央電視台)の番組「国宝档案」を書籍化したもののうち、中国書道にまつわる部分を翻訳した本です。原著とは違い、ナレーションの重複の削除や、作品の配列の時代順への変更、訳者による注の追加などが行われており、読みやすくなっているようです。
内容としては、書の国宝(紙に書かれたものもあれば、石碑やその拓本もある)について、それらの書かれた背景や、その後どのように現在に伝わってきたかが、様々なエピソードとともに述べられています。特に、戦乱の中どのように守られてきたかに重点が置かれているように感じられました。(そしてこの「戦乱」としては日中戦争が多いです。)一方、書の芸術的側面についての解説は限定的だったと思います。
私のように「書芸術には明るくないが、しかしその歴史的背景を知りたい」という人間にはぴったりな内容だと思います。また、西安碑林所蔵の石碑が7個も扱われており、西安碑林の予習としてもちょうどよかったと思います。
ただし、訳者自身があとがきで述べている*2ように、学術的正確性を求める場合には向かないと思われます。具体的には、劇的なエピソードが多い割に、それらの出典は書かれていないなどの点が気になりました。
新訂 書の歴史 中国編
中国における書体・書風の変遷を、文字の始まりから清朝末期までの様々な作例の図版を用いて辿った本のようです。
図版がメインです。具体的には、1ページに概ね2枚以上の図があり、またページの面積の半分以上が図版に占められています。本文は各作例についての短い解説となっています。解説には美醜についての価値判断も端的に述べられていますが、私は理解できていません。
なお、 私は解説部分はほとんど読んでいません。図をぱらぱら眺めながら「こんな書体・書風があるのか~」というかなり邪道な読み方をしました。個人的に気になったのは、中山王舋方壺に刻まれたなんとも不思議で装飾的な書体*3と、北宋徽宗の痩金体の書。 また、石碑類については所蔵館が書かれたものもあり、中国観光で訪れたい場所が増えました。とりあえず漢代の石碑については山東省にいくつも博物館があることをこの本で知りました。
番外編 : 西安碑林博物館の解説動画
https://weibo.com/u/2622629300?tabtype=newVideo
本ではないのですが、西安碑林博物館の公式weiboアカウントでは、解説動画が多数公開されています。
特に「"百年" 白雪松带你看千年碑林」と書かれた、公式ガイドの白雪松氏による解説動画が良かったです。なんとも軽妙洒脱なトーク(しかも1本の動画で3~5分程度と程よい長さ)で、西安碑林の様々な石碑の来歴や内容、関連するエピソードなどを語ってくれるので、予習にはうってつけでした(中国語ですが、字幕あり。)。