世界史ときどき語学のち旅

歴史と言語を予習して旅に出る記録。西安からイスタンブールまで陸路で旅したい。

2023年冬 西安と蘭州の旅 6日目 : 西安(乾陵)

2023年冬 西安と蘭州の旅6日目(2023-12-18)の記録です。 前日に西安に着いたばかりですが、この日は西安から少し足を延ばして、唐代の陵墓「乾陵」を観光します。

今回の旅全体のまとめはこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

前日の旅行記はこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

朝食

朝8時前に起床。字面だけ見ると朝遅いのですが、だいたいこの時間が日の出です(中国は広い割に全国が1つの標準時間なので、西部だとこうなる。)。

朝食は近くの胡辣汤のお店でいただきます。 お値段17元。胡辣汤は意外と辛かったです。あと、羊のくさみがけっこうある...?

レジのお爺さんからどこの人か聞かれたので「住在日本的華僑」と言ったら「你在日本干什么呀?你知道吗,我们跟日本有仇恨(略)」みたいなことを言われました。 前回9月と今回の旅でけっこういろんな人と話したのですが、このタイプの話をしてくる人と出くわしたのはこれが初めてな気がする*1

乾陵までの移動

乾陵までのアクセスは、都市間バス → タクシーと、ちょっとひと手間かかります。

まず、地下鉄で城西客运站に移動します。

入ってすぐ右手に自動券売機があるのですが、これを使うには中国のいわゆる「身份证」が必要です。 ということで、奥に進んで右手側(上の写真の右奥)の有人窓口でパスポートを見せてバスチケットを購入します。

乾县行きのチケットを買うのですが、乾县行きには高速と低速があってどっちか聞かれるので要注意。もちろん高速で。 アリペイで支払ったのですが、有人窓口に来ている他のお客さんは現金で買っている人も多かったです*2

こちらが紙のチケット*3 お代は27.2元。 ちなみにこの路線は「流水班」と言うタイプの路線でした : 事前に決まった発車時刻がなくて、だいたい満員になる or ある程度の時間間隔が経ったら発車するようです*4。 終バスの時刻は決まっているので、そこだけ要注意*5

なんだか良い香りがするなーと思ったら、ナツメを使ったお菓子(?)のお店がありました。 この系列のお店、2日前に宝鶏でも見たし、その前に蘭州でも見かけた気がする。流行ってるのかな。 香りに誘われて買いたくなったのですが、朝食が量多めでおなかがいっぱいだったので残念ながら見送ります。

建物から乗り場に出るときにパスポートチェックがありました。 上の写真では少し暗くて見にくいですが、行き先が書かれているので、これを見て自分の買ったチケットの行き先のバスに乗ります。

乗車時にはチケット確認がなかったのですが、乗ってからしばらくして乗客が増えてからまとめて確認されました(機械でバーコード読み取り)。 乗車後だいたい15分ほど待って出発。

道中は農地が続きます。果樹らしきものが多かった気がする。

乾县のバスターミナルには1時間くらいで到着しました。 タクシーの運転手が集まってきたので、運賃と車両(白タクじゃなくてきちんとしたタクシーであること)を確認して乗車。

タクシーで乾陵ビジターセンターまで移動します。 乾陵のあたりは見どころがいくつも散在しているのですが、そのうち「游客中心」(もしくは「乾陵博物馆」「永泰公主墓」)と書かれているあたりにあります。

このやたらと大きくて新しい建物がビジターセンター。ただし、これは裏側から見た姿で、正しい入り口はこの反対側でした(まあこっちからも入れたのですが。)。 下車時にタクシー運転手は名刺を渡してくれたので、帰りは電話して呼ぶことにします*6

乾陵景区

概要

  • 唐代の陵墓群です。主に「乾陵」「永泰公主墓」「懿德太子墓」などからなります。中でも乾陵はなんと高宗と武則天の合葬墓です。
  • ビジターセンター(上の案内図の1番)で共通入場券と観光バス乗車券を購入しました。各陵墓などでもチケットは売っているようなのですが、そちらで買うにはどうも身份证が必要なようで、パスポートを見せたら「ビジターセンターで買うように」と言われました。
  • 「各陵墓を見る→シャトルバスで次の陵墓に行く」という行程でだいたい一通り周れます。共通入場券と観光バス乗車券はいずれも紙で、チケット上のQRコードを係員がスキャンする形で利用しました*7
  • ちなみにこの時期は閑散期だからか、バスは一部行程をスキップしていました(後述)。
  • 歴史的背景(被葬者が誰か)を予習していった方が良いと思います。私は中公新書の「唐 ユーラシアの大帝国」を読んでいきました。

永泰公主墓エリア

ビジターセンターから最も近い(徒歩ですぐ)のが、こちらの永泰公主墓があるエリアです。

仿唐乾陵地下宫

こちらはなにやら人形で武則天の生涯を再現した施設のようです。 私はあまり興味がなかったので、さっと一周しただけで出ました。

永泰公主墓

こちらの入り口から墓室の内部に入ることができます。

墓室への下り坂はけっこう急です。 ちなみに、このときは他の観光客がほとんどいなかったのですが、スタッフの方に聞いた話では人が多い時期はここにも行列ができるそうです。 あと、閉鎖空間で換気が効かないので、あまりたくさんの人間が入らないように入場制限もしているとか。

墓室内部。 壁画がありますが、墓内の壁画はたいていが複製品で、本物は陝西歴史博物館にあるそうです*8。 奥には石棺(をさらに覆うもの?)のようなものもあったのですが、これも複製品かな...?

陵墓の上にも登れます。

乾陵博物館

永泰公主の墓誌の蓋部分と、墓誌銘の拓本*9。 千数百年前の文字ですが、基本的には今の漢字とほぼ同じ形で、1つ1つの文字は読み取れると思うとわくわくします。 漢文(もとい古代漢語or文言文)を齧って、博物館でこういうのを読めるようになりたい。

墓の壁画。ただ、これは複製品な気がします*10

副葬品の俑。後ろからよく見ると猫(?)もいてどことなくユーモラスさを感じさせます。 他にも俑(特に胡人のもの)が多数展示されていました。

懿德太子墓

シャトルバスに乗って懿德太子墓に向かいます。 そこそこ大きな観光バス(マイクロバスよりは大きい)なのに自分1人しか乗ってなくてかなり申し訳ない。

懿德太子墓。ここのゲートで入場券の確認があります。

こちらは華表と呼ばれる、装飾用の柱だそう*11。 よーく見ると表面に文様が刻まれています。 ただ、野ざらしにされているにしては綺麗すぎるので、当時のものではなく複製品な気もします。

懿德太子墓も墓室に入れます。

敷地内には出土品陳列室と壁画館という展示施設もあったのですが、残念ながらどちらも閉まっていました。

これとは別に懿德太子の生涯を解説した展示は開いていたのですが、軽く見るだけにしました。

なお、この時点で14時を過ぎているので、さすがに空腹が激しくなってきました。とりあえず羊羹を食べます。

乾陵への移動と昼食

シャトルバスで乾陵に移動します。 地図を見る限りこの近辺にレストランがありそうだったのですが、オフシーズンだったからかかなりの数が閉まっていました。 ピンチ。

バスは陵墓の一番下ではなく、真ん中くらいのところ*12まで山道を登って停車しました。 ハイシーズンだと下まででで、オフシーズンは上でまで登ってくる、ということかもしれません。

幸いにして、バス停近辺にレストランが1店舗開いていました。 他に誰も客はいなかったし店内も寒かったけど、本当に助かりました。

ビャンビャン麺。めっちゃ量が多く、あたたかくて嬉しい。 なお外は寒い(-5℃~0℃くらい)上に、この観光は基本的に野外を歩き回るので、だいぶ体が冷えます。 そういう意味でも暖かい食事は最高でした。

乾陵

ビャンビャン麺を食べてHPが回復したので、観光に復帰します。

乾陵は天然の山そのものを利用しており、ここまで見てきた陵墓に比べてスケールが大きいです。 なんと、道の先に見える奥の山が陵墓本体。

石像/石碑いろいろ

陵墓に向かう大通りの両側には、多数の石像が並びます。

左のレリーフはダチョウを表わしたものです。 ダチョウは西方からの朝貢などでもたらされたそうで*13、往時の国際的な交流を感じさせます。 右の馬の彫像は、鞍だけでなく鐙など馬具が精巧に再現されているのが印象的です。

「無字碑」を呼ばれる、建立当時は文字の刻まれなかった石碑。 なのですが、他の観光客が「無字碑って言うけど文字あるやん」って突っ込んでたとおり、今は文字が刻まれています(かなりうっすらとしか見えないですが。)。 解説の銘板によると、宋金以後に誰かが勝手に刻んだものらしい。。。

こちらはもう1つの石碑「述聖紀碑」。こちらは武則天撰文の文面が刻まれているとのこと。 文字はかなりうっすらとしか見えないですが、

こちらの解説パネルを見ると残っている文字もそこそこあるようですね。 本文の書きだしが「朕聞」とあるので、皇帝として書いた文章であることが見て取れます*14

六十一蕃臣像。高宗と武則天の時代に唐に臣従した周辺民族/国家の長を象ったものだそうです*15

ほとんどの石像は頭部がありませんでしたが、こちらは比較的よく残っており、髪型が印象的です(恐らく、唐の中央の高官らとは異なった髪型)。

像の背中には文字が刻まれているものもあります。 解説パネルによると、国や部族の名前、官名や本人の名前などが刻まれていたそうです。 残念ながら今はほとんど読み取れないみたいです。

背面の文字と頭部がもっと残ってたら、当時の様々な民族の髪型について窺い知れる貴重な史料になっていたかも...?

乾陵の碑。20世紀半ばのものも、清代乾隆年間のものもありました(写真は清代乾隆年間のもの。)。 思えば前日にいった茂陵(漢武帝の陵墓)にも乾隆年間の碑がありました。流行ったのかな。

山頂まで

さて、たいていの観光客はここで帰るのですが、せっかくだし行ってみるか、ということで陵の山頂の方に向かってみます(この時点では山頂まで行く気はなくて、「傾斜が急になったら引き返すか」程度のつもり)。

途中まではきちんとした舗装道です。 ただ、傾斜もそこそこつくので、雪や凍結があったら諦めると思います。 看板にも「雨や雪の日はやめとけ」(意訳)と書いてありました。

途中から舗装がなくなります。 登山道と言っても差し支えない気がします。 土がそこそこ滑りやすいタイプのものだったり、たまに凍結があって滑ります(実際、滑っている人も見かけました。)。 よーく見ると写真の石にも「小心」と書かれています。 なお、さっきまでずっと寒い寒いと感じていたのですが、体を動かしているのでかなり暑くなり、ダウンを脱いで歩きます。

途中、すれ違った若者から「乾陵はどこですか?」と訊かれました。 話を聞いたら、私とは反対側(北側)小道から登ってきたそうです。そちらにも道があったとは。。。 「今我々がいるこの山が乾陵だけど、石像や石碑があるのはこの先」と伝えました。

山頂には何かがあるわけではなく、必死の思いで登ってきたおば様が「真坑人!」と言っていて笑いました(気持ちは分からないでもない。)。 とはいえ、眺めはそこそこ良いです(天気が良かったらもっと良いはず)。

振り返ると、闕(?)らしきものが見えます。 ただ、他の陵墓がぱっと見てわかるわけではなさそうです(もしくは自分の観察眼が貧弱)。

なお、SOS用の機械やゴミ箱がありました。 ここまでゴミ回収に来るのすごいな。。。

山頂には先ほどとは別の若者グループもいて、会話を聞いたらこちらも北側から登ってきたようです。 ただ、「え、これ向こうに降りて、また戻りで登って降りるの?」と絶望の声を上げていました。。。

10分くらいの滞在で下ることにします。 下りは楽かと思いきや滑りやすいので要注意。 先ほどの乾隆帝時代の碑から、だいたい往復40分(山頂滞在時間含む)かかりました*16

章怀太子墓

最後に章怀太子墓に行こうとシャトルバスに乗ったら、ビジターセンターに戻ってきてしまいました。 運転手に訊いてみたところ、今は章怀太子墓はバスのルートから外されている(オフシーズンだから?)とのことだったのですが、「見たいなら乗せていくよ。」とありがたいことに乗せていってくださいました。 到着後、「君を待つから、10分くらいで戻ってきてね。」(意訳)と言われました。

壁画は恐らく複製品だと思うのですが、斗栱らしきものが描かれている点が気になります。 唐代の建築はあまり残っていないと思うので、こういう墓の壁画など地下に残されたものから手がかりが得られると面白そう。

こちらのエリアは小さかったので、10分もかからずに見終えてバスに戻り、ビジターセンターに戻りました。

西安への移動

ビジターセンター前にはタクシーはいなかったので、昼のタクシー運転手に電話をかけて迎えに来てもらいます。 乾县から西安への終バスは18:30なんですが、この時点で17:50。 運転手さんからは「たぶん間に合うけど、万が一間に合わなかったら拼车(乗り合い)を手配して西安に戻ることもできるから、連絡して。」と言われました。これは本当にありがたい。

なんとかバスターミナルにたどり着くとまだ終バスの時間には余裕がありました。セーフ。 ターミナル内には客は誰もおらず、安全検査もパスポートチェックもなしでチケットを売ってくれました。なんならターミナルに入らずに直接バスに乗ってバス内で支払う乗客もちらほら。 余裕がなかったので写真はなし。

バスはもう来ていたので、すぐに乗車します(時間になる前に発車して置いていかれたらやってられんと思ったので...。)。ただし、結局18:30きっちりまで待って出発していた。きちんとしてる。

西安のターミナルに到着後、地下鉄で移動してホテルに帰着。だいたい20時半前でなかなか疲れました。

夕食

夕食は昨日と同じお店で、羊肉泡馍にしました。 ほぼ1日寒い屋外を観光した上に長距離バスでの移動後なので、五臓六腑に染み渡るような美味しさです。

疲れてて中国語レベルが下がったからか、若い店員さんに「你是从哪个国家来的?」(「你是哪里人?」ではなく)と聞かれました。 日本の華僑と答えたけど、「日本行ってみたいんだよ~。ところで東京の人って仕事がかなり忙しいって本当?」などなど和やかに会話が進みました。 朝の誰かさんとは大違いや。

しかもありがたいことにサービスで飲み物もいただいてしまいました(オレンジ味のファンタに近いもの。西安名物とのこと。)。 肉夹馍や、特に夏には凉皮とあわせるのがおすすめだそうです。

ホテルに戻ります。 外気温は氷点下ですが、屋台が賑わっていて驚きました。

翌日に続きます。

*1:ちなみに一番よく訊かれた話題は「日本って給料良いんでしょ?」でした。

*2:QRコード支払いが使えるなら券売機で買うほうが便利なはずなので、そちらが利用できない人が窓口に来ているのかなーと思います。

*3:パスポート番号と名前は塗りつぶしました。

*4:携程で時刻表を調べたときの説明。

*5:携程のWeChatミニプログラムで調べれば分かります。ただ、始バスの時刻は書いていなかった気がします。。。

*6:オフシーズンだからか、帰りの時間帯に客待ちのタクシーなどもなかったので、これは本当に助かりました。

*7:と言いつつ、シャトルバスでチケットをチェックされたのは最初の乗車時だけで、それ以外の乗車時にはほとんど確認されませんでした。閑散期だったからかな。。。

*8:スタッフさん情報

*9:墓誌銘は本物もあるのですが、拓本の方が文字が読み取りやすかったです。

*10:左の壁画の現物を陝西省歴史博物館で見かけた記憶があるので。。。

*11:解説パネルより

*12:上の「概要」で載せた写真の赤丸6 (☆マークがあるあたり)

*13:現地解説パネルより。

*14:たぶん。普通は「朕」は皇帝の1人称だと思うのですが、一方「太后」とも書いているので、位置づけがよくわからない。。。

*15:解説パネル

*16:ただ、私はある程度登山をやっている人間なので、参考になるかどうかは分かりません。