世界史ときどき語学のち旅

歴史と言語を予習して旅に出る記録。西安からイスタンブールまで陸路で旅したい。

中国建築についての本のメモ(2025年北京旅行の予習)

2025年秋・冬の旅行先は北京!(予定) 北京には主に明清時代の中国伝統建築が数多く残ります。

せっかく見に行くなら知識を身に着けたほうが楽しめる、ということで中国伝統建築についての本を何冊か読んでいきました。 この記事では、一連の予習で読んだ本それぞれのメモと、本どうしの比較について記します。

要約・比較

  • 建築知識 : 最初の1冊に良さそう。コンパクトながら基礎知識や用語から各時代の建築を一通り概観できるかと思います。
  • 図解 中国の伝統建築 : 構造や架構に興味がある人に特におすすめ。断面透視図のイラストが多く、柱や梁、組物の配置などが分かりやすいです。
  • 中国歴史建築案内 : 構造や架構よりも建築の文化的側面(様式と格式の関係や、建物の使われ方など)の話が多め。装飾・色彩の章もあり。
  • 北京古建築 : 対象が北京に絞られる分、微に入り細を穿つ記述と豊富で大きい写真で、各建築を詳しく扱っています(ただ構造や架構の話はほぼなし。)。明清時代の文献や絵画からの引用が多いのが、他と比べて大きく異なる点。
  • 図説 民居 : 中国各地の民居(伝統的な住宅建築)を主にイラストで概観できます。文化的な側面(建物の使われ方や装飾、風土との関係など)が主な話題。
  • 中国の城郭都市 : 現存するものに限らず発掘成果などに基づいて個別具体の城郭都市について詳しく論じています。ただし、時代には偏りがあり、唐宋以前が詳しく、元以降はかなり簡潔。

中国伝統建築全般

「建築知識 2024年7月号 中国の建物と街並み詳細絵巻」

www.xknowledge.co.jp

冒頭で中国伝統建築のルールや特徴、用語などを概観*1した上で、時代順に中国建築を幅広く紹介していきます。 扱う時代も地域も幅広いです : 時代は副題の「新石器・古代王朝から清朝まで」が示唆する通り、また地域も北京や西安などの名の知れた古都ばかりでなく、福建(土楼)や新疆(陸屋根民居)、雲南(タイ族の高床式住居)などにも触れています。 加えて、建築だけでなく家具や服飾にも項が割かれています。

図は写真ではなくイラストが中心。 (全てではないですが)建築の雑誌らしく寸法も書き込んであり、実物をイメージする助けになるかもしれません。

また、本書の特徴として、現存する建物の解説というよりは、過去の建築を再現する、という建築史的な観点からの記述になっていることが挙げられるかと思います*2。 現存しない建物についても、発掘成果や文献の記述(たぶん)などに基づいて復元図が描かれています。(e.g.)咸陽宮(p.34)や大明宮(p.50)など

該当部分のページ数は80ページないくらいとコンパクトですが、充実の内容かと思います。

「図解 中国の伝統建築」

  • 著者 : 李乾朗(著), 恩田重直, 田村広子(訳)
  • 出版社 : マール社
  • 出版年 : 2023
  • ISBN : 978-4-8373-1601-5

www.maar.com

李乾朗(2007)「巨匠神工 : 透視中国経典古建築」遠流出版 の和訳本です。 ただし、全訳ではなく、原書の51建築から38建築を抜粋し、再編集を施しているとのことです*3

構成は、建物の種別(「寺院編」「宮殿編」「民居編」)。原則、1つの節で1つの建物を扱っており、1つの建築に対して4~10ページとって詳しく解説しています。 節の間のコラムとして、一般論も扱っています(「殿堂式と庁堂式」「斗拱(組物)」など。)。 また、全体を通じて、イラストと写真を多用しています。

本書の特徴として、透視断面図(?)のイラストを中心にしていることと、(特に寺院建築については)構造や架構の話題が充実していることが挙げられるかと思います。 私はこのへんの話題が(別に理解しているわけではないですが)好きなので、断面透視図(?)を眺めながら、「なるほど、ここの部材がこうつながってるのか~」など読み解けるのが面白かったです。

なお、特に構造や架構周りの話題では建築用語が頻出します。巻末に用語集はあるのですが、慣れないと面食らうかも。 また、建築用語は日本建築のものに置き換えられているようです(e.g.「廡殿」ではなく「寄棟」など。)。 日本建築をかじったことがあるので、このへんはハードルが低くなっていてよかったです(がしかし、本格的に中国建築の話をかじろうとしたときは、中国の用語を知っておきたいところ。)。

なお、構造や架構に興味がある場合はこちらの個人ブログや、そこに記載のある参考文献も良いかと思います。 chounamoul.exblog.jp

「中国歴史建築案内」

  • 著者 : 楼慶西[著], 高村雅彦[日本語版監修]
  • 出版社 : TOTO出版
  • 出版年 : 2008
  • ISBN : 978-4-88706-295-5

jp.toto.com

原題は「中国古建筑二十讲」。 ただし体系だった教科書というよりは、あくまで非専門家向けの読みものかと思います。 構成は時代順ではなく概ね建築の種類別(紫禁城、陵墓、庭園、住宅建築など)ですが、最後の方は「建築装飾」「色彩」など建築を彩るモチーフの話などになってきます(このへんはあまり読んでないです)。 写真も豊富で、平面図などもあり。 加えて、巻頭に地図があり、本文中で扱った建築の所在地が一通り分かるようになっていて便利です。 なお、紹介する建物の個数は多く、上の「図解 中国の伝統建築」に比べると、建物1つあたりのページ数は少ないかと思います。

印象に残ったのは、建築の様式と格の話。具体的には「柱間で測って大きい方が格が高い」「屋根は廡殿式(寄棟)が一番格が高い」などの話で、特に紫禁城の章では宮殿内の複数の建物を比較して例示しており、分かりやすかったです[p.58など]。このへんは現地で実物を見るときの視点が養われたと思います。

ただ、構造とか架構とかの話が(1章の斗栱などの話以外は)あまり出てこず、代わりに情景描写的の記述が多いあたりは、ちょーっと個人的な好みではなかったかもしれません。 また、細かい話ですが、本文中で図/写真への言及がなく、その点やや読みにくく感じられました*4

地域やカテゴリを限定したもの

「北京古建築」

  • 著者 : 王南[著], 李暉[監訳], 岩谷季久子[訳]
  • 出版社 : 科学出版社東京[出版], 国書刊行会[頒布]
  • 出版年 : 2024
  • ISBN : 978-4-336-07642-7(上巻), 978-4-336-07643-4(下巻)

www.kokusho.co.jp

www.kokusho.co.jp

タイトルの通り、地域を限定して北京の古建築を扱った本です。 王南(2015)「北京古建築」中国建築工業出版社 の和訳ですが、全訳ではなく、原書の16章から8章を抜粋して再編集したものとのことです(「監訳者あとがき」より。)(恭王府についての記述を探しても見つからなくておかしいなと思ったら、これが原因だったっぽい。。。)。

序論で北京の地理から説き起こし、本編では建築の種別の編成に北京を紹介していきます(章立てなどはリンク先参照)。 北京に限定しているためか、1つ1つの建築をかなり詳しく掘り下げており、情報量が多いです。 また、それ以外にも、これまで上に書いた書籍とは様々な違いがあります:

  • 明清時代をはじめとした文献・絵画史料からの文章や絵が多数引用され、往時の姿を知る縁も与えてくれています*5。たとえば、文献で言えば清代の「日下旧聞考」はたびたび引用されていますし、絵画で言えば先農壇での祭祀を描いた雍正年間の「祭先農壇図」(上巻p.149)や、北京近辺の水系や水利の様子を描いた乾隆年間の「都畿水利図」(上巻p.9)など。昔の様子についての記述について「なぜそれが分かるのか」が気になるので、こうやって史料を紹介してくれるのは嬉しい。
  • 扱う建築の網羅度合いはここまでに書いた本よりも高いと思われます。たとえば、紫禁城についての第二章では、上に書いた「建築知識」「図解 中国の伝統建築」「中国歴史建築案内」などであまり触れていない建物も多数扱っていました。
  • 31cm x 23cm(大雑把に)と大きめの本で、写真や図も大きく印刷されており、非常に見やすかったです。

なお、非常に詳しいので、よっぽど興味がある方以外は、通読するのではなく、自分の興味のある建築について調べる、というリファレンス本的な使い方になるかもしれません(私もこの読み方をしており、通読していません。)。

ただし、構造や架構の話はあまり見かけなかった気がします(このへんの話は上記の「図解 中国の伝統建築」が詳しい。)。

「図説 民居 イラストで見る中国の伝統住居」

  • 著者 : 王其鈞 著, 押川雄孝, 郭雅坤 訳, 恩田重直 監訳
  • 出版社 : 科学出版社東京, 東方書店
  • 出版年 : 2012
  • ISBN : 978-4-497-21202-3

www.sptokyo.co.jp

中国各地の伝統的住宅建築をイラストと文章で紹介した本です。

イラストは鳥瞰図だけでなく、平面図や断面図もあります。 イラストのサイズも大きく、イラスト上での注釈も多いので、文章での説明を視覚的に理解でき、読みやすかったです。

トピックとしては構造や架構の話はあまりなく、空間配置や装飾、建築の使われ方、風土や歴史との関連などの話題が主だったと思います。

軽く拾い読みするだけでも、中国全土の民居の多様性を感じられるかと思います。 少数民族の住居が多種多様であることに加え、同じ漢族の中庭式の住宅(建物が中庭を囲む)でも、北京の平屋で開放的な四合院と、安徽の高い壁と小さい中庭のややもすると閉鎖的な高楼とではずいぶんと印象が異なります。

「中国の城郭都市」

以前別の記事に書いたのでそちら参照。

amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

ただ、元以降の記述は非常に少なく、明清時代の北京については言及が皆無だったので、今回はあまり読みませんでした。

*1:この部分の用語解説けっこう詳しいのでありがたい。

*2:http://shahr.seesaa.net/article/510678979.html も参照。

*3:冒頭「刊行によせて」の下の「編集部より」参照。

*4:本文中で具体的な建築名が出てきたとき、それが今のページ(や前後のページ)の写真に対応するものなのか写真を逐一チェックしにいかないといけないので...。「~寺仏塔(図a.b)」のように言及があれば、本文中で「図x.y」と現れたときだけ図/写真を見に行けば良いので、よりスムーズに読めると思います。

*5:上掲書などでも「営造法式」や「周礼」などには言及していますが、本書で引用している文献の方がはるかに多いかと思います。