世界史ときどき語学のち旅

歴史と言語を予習して旅に出る記録。西安からイスタンブールまで陸路で旅したい。

2023年 河西回廊の旅 6日目 : 嘉峪関観光

2023年シルクロード河西回廊の旅6日目(2023-09-19)の記録です。

この日はシャトルバスを利用して、嘉峪関の万里の長城関連の観光地を一通り周りました。 入場料やシャトルバスなどの情報については以下の記事に別途書いたので、詳しくはそちらを参照していただければと思います。 amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

今回の旅全体のまとめページはこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

前日の旅行記はこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

朝食

ホテル内のレストランは休業中のようで、外に探しに行きます。 まだ9月下旬に入ったばかりで、既に朝8時前でしたが、外はなかなか寒かったです(一方で昼間は暑いので、やはり乾燥した地域は一日の温度差が大きいですね。)。

ホテルの近くで「早餐」の看板を出しているお店を見かけたので入ります。

頼んだのは、油条、豆乳、ゆで卵(茶叶蛋)、肉まん。合計で9.5元でした。

サクサクの油条となみなみと注がれた温かい豆乳、「そうそう、中国の朝食と言えばこれだよなー」と感慨深いです*1。 実は今回の旅では油条を食べるのはこれが初。

関城(嘉峪关关城景区)

入場ゲートまで

まずは、路線バスに乗って関城景区に向かいます。 だいたい20分ちょっと乗って終点の関城景区(关城景区)で降り、少し歩けばチケット売り場などがある入り口に到着です(バスは景区の北側に着きますが、入り口は東側にあります。)。

入り口あたりからの写真。 写真左側にチケット売り場があります。 写真右側にはレストランやお土産屋が並んでいます。

レストランやお土産屋の並ぶ区域。写真奥にもさらに伸びています。

私は予約していなかったので、窓口で紙のチケットを購入しました。

入場ゲートはチケット売り場から意外と遠く、しばらく歩いた先にあります(上の写真の中央奥。近くで写真を撮るのを忘れた。。。)。

関城の内部への門まで

チケット確認を終えると、すぐこの景色。 平日なのに多くの人で賑わっていました。

さきほどの写真の門をくぐって少し歩いたところで、音声ガイドがあるということで、借りてみました。 英語もあります(ただしかなり中国訛り)。お値段確か15元。100元くらいのデポジット混みで支払って、後で返金される仕組みでした(このへんのお金のやり取りもすべてAlipayで行いました。)。

番号のボタンは操作する必要はなく、解説対象のスポットに近づくと自動で音声が流れる仕組みでした。 こちらで操作しなくてよいという意味では一見便利なのですが、一方で解説を聞きながら歩こうとするとスポットを離れたと判定されて解説が止まったり、隣の別の解説が流れたりと、制御がしにくくやや不便な気もしました。

楼閣が立ち並ぶ関城の本体部分に向かいます。 ここまで綺麗だと「再建されたものでは?」と思ってしまうのですが、団体さんのガイドの話を聞く限りでは、長城自体は8割方明代のものが残っているそうです。 やはり降水量の少なさのおかげか。 ただし、楼閣は近代の再建も多かったです。

城壁部分を近くで眺める。後日敦煌で見た漢代の長城は、土と草木(?)を交互に重ねた構造だったのに対し、こちらは基本的には土だけでできているそうです(これまたガイドさんの話から。)。

何やらイベントがあるようで、その設営準備が進んでいました。

戯台(劇を演じるための舞台。)。辺境の軍事基地にも戯台があるのは意外に思われたのですが、この戯台は18世紀末の建造だそうなので、そのころには嘉峪関はもう国境地帯ではなかった気もします(うろ覚え)。

こちらは関帝廟。ただし、20世紀末の再建です。 団体客のガイドさんの話を立ち聞きした限りでは、関帝廟があるのは、ここに勤めていたのが武人だったからとか、関帝信仰が盛んな地域の出身者が多かったからだそうです。

関城の内部

いよいよ本体部分の中に入っていきます。 ここ、よく見たら、門の部分だけはレンガが使われているようですね。 下に開口部を設けるから版築がやりにくいのかなーとか、上に楼閣がるから重さを支えるために頑丈なレンガを使ったのかなーなどと思ったのですが、実際のところはどうだったのか気になります。

門をくぐったところ。左側がさきほどの門です。 次の門への動線が直線ではなく、90度曲がる形になっています。 日本の城でも防衛のためにこのような形が用いられて「桝形」と呼ばれていると聞いたことがある(要出典)のですが、こちらも同じ理由でしょうか。 一方が片方に影響を与えたとしたら技術交流の例として興味深いですし、双方が独立に考案したのだとしたら、それも城の防衛の普遍性が感じられて興味深いです。

内部への門をくぐると、城壁の上に登ることもできます。 ちなみに写真左側の斜面は馬道と言って、馬に乗ったまま移動する際に用いられたとのこと(解説パネル情報)。 ただ、馬に乗ったまま昇り降りするにはちょっと急だった気もする...?(馬に乗ったことがないのでわからないですが。)

さきほどの桝形のような形の部分の上に登ったところです。 西から茫漠とした大地を旅してきて、遠くからこの楼閣が見えたらさぞ迫力があっただろうなと想像されました。 ちなみに近くにいた団体客のガイドさんは「これらの立派な楼閣は軍事的な目的というよりは、示威のためのもの」(意訳)と話していました。

親切にフォトスポットの案内もあります。

上の地点から撮影した写真。

楼閣を近くから見たところ。 彩色されており、確かに(仮に当時もこのように彩色されていたのだとしたら)示威のためという用途も尤もかもしれません。

城壁の上はほぼぐるっと一周歩くことができました。

遠くまで伸びる長城。関城だけ見ると点としての観光地ですが、線として伸びる長城を見ると感慨深いものがあります。

左奥はイベントのための仮設ステージ。手前の建物は遊撃将軍府と呼ばれる建物で、軍高官の執務場所だったそうです(今あるものは近代の再建だったと見た気がするのですが、写真が出てこない。。。)

たぶん銃眼。

一方こちらは貫通していないので変だなと思ったのですが、小耳にはさんだガイドさん解説によると、蝋燭などを立てて夜の明かりとするためのくぼみだったそうです。

ここまでだいたい2時間くらい。一通り見て回ったので出口に向かいます。 一番外側の楼閣のあたりから電動カートでショートカットできますが、私は元来た道を戻りました(音声ガイドを返しに行く必要があってたのと、長城博物館に行きたかったので。)。 このへんは詳しくは別記事に載せた景区内の地図参照。

長城博物館

さて、上に書いた通り、出口に向かう途中に嘉峪関長城博物館に寄っていきました。 博物館の公式webページには2022年時点でのお知らせとして事前予約が必要である旨書いてあったのですが、特に予約せずに入れました。 関城のおまけ的なところかなと思ってあまり期待しないで行ったのですが、存外に大きく展示も充実していて良かったです(若干年期が入っている気はしましたが。)。

嘉峪関の長城自体は明代のものですが、こちらの博物館では漢代や唐代など幅広い時代が扱われています。 展示物は兵器や駐屯地の備品のようなものから、河西地域の墓で見つかった副葬品など多種多様でした。

こちらは「転射」と呼ばれる機構の復元模型。 中心の軸のような部分は回転させることができ、軸に開けられた空洞部を通して外の様子を窺ったり、矢を射たりすることができるとのこと。 また、回転させると穴を閉じることもできるそうです。(以上、解説パネルの情報。)

蘭州の甘粛省博物館ではこれの実物(壁に嵌められた木製の部分に対応するもの)が展示されていて「何に使うんだろう?」と不思議に思ったのですが、この復元模型を見て納得しました。 ただ、復元の根拠について、用途の記載が当時の文献にあるのか、はたまた壁にはまったのに近い状況で出土があったのかなどは気になります。

箸や靴などの日常の品々もありました。やはり乾燥した地域はこういうものが良く残るようですね。

木簡いろいろ。 と言ってもこの2つは記録本体としての木簡ではなく、左は「楬(けつ)」という荷札のようなもの*2、右は「検」という封緘に利用される木簡です。 「検」についてはこちらの甘粛省博物館の旅行記に詳しく書きました。

もしかしたら期間限定かもしれないのですが、嘉峪関魏晋墓の画像磚に見る飲食文化というテーマ展示もありました。

何か火を起こして調理しているところでしょうか。

こちらはパネルによると、お酢を濾過しているところとのこと。

羊の屠殺/解体の様子らしい。

旅行前に読んだ本[3]では、往時の食生活を示す史料としてこれらの図が盛んに用いられていました。 政治史というよりは日常生活史に興味がある身としては、非常に興味深いテーマで、見れてよかったです。 実はこの翌日には実際の嘉峪関魏晋墓も見学しました(ただし、そちらは写真撮影禁止。)。

昼食

一通り見学し終わったらだいたいお昼の時間になったので、入り口近くで立ち並ぶ飲食店で昼食をとることにしました。 「正宗兰州牛肉面」みたいな看板を掲げたお店が並んでいるのですが、だいたい観光スポットのお店でこういうのはいまいちなことが多そう...という偏見でチェーンのハンバーガー屋さん(「徳克士」)に入ってみました。 がしかし、若い人がたくさん並んでいたので諦めて、牛肉面のお店に適当に入りました。

オーダーが厨房まで通ってなくてなぜか厨房スタッフが店員にキレるという一幕もありましが、お客が厨房の人をなだめて「ゆっくり待つので急がなくて良いですよ。」と言いつつ「できれば肉多めでお願いします。」とちゃっかり頼んでて笑いました。

味はまあ普通...? お値段は20元でした。

懸壁長壁

シャトルバスに乗って懸壁長壁に移動します。乗り方や料金などについてはこちらの記事に書いたので、気になる方は参照いただければと思います。 とりあえず、関城のチケットで入れます。

名前の通り、すさまじい傾斜の斜面の上を長城が走っています。なお、現在の長城は1980年代に再建されたものです。

上まで登れるのですが、傾斜が急なのでこんな注意書きもありました。

日差しがきつくて暑いですが、せっかく来たので登ります。

登りつつ振り返るとなかなか眺めが良い。

登りきったところあたりからの眺め。 「目の前に広がる大平原からの侵入に備えていたのか」と一瞬思ったのですが、実際はたぶん逆のはずで、今見えているのは長城の「内側」だと思われます。 というのも、長城の狭間胸壁*3は、今見ている方向とは反対側についていたためです(ただし、復元時に間違えていなければ、の話。)

ところどころ石を並べて文字を書いたようなものが見えるのですが、観光客の落書きみたいなものかな...?

帰りは行きとは違ってゆるやかな斜面を下ります(これは下る途中に振り返ったもの)。

一度シャトルバスで関城に戻り、そこからまた別のシャトルバスで第一墩に向かいます。

長城第一墩

墩というのは、のろし台の明代の呼称のことで、ここは明代長城の一番西にあるのろし台だったそうです(解説パネルより)。 こちらも関城のチケットで入れます。

上の写真の門から入り、電動カート(別料金)に乗り、まずは博物館を見に行きました。

博物館は地下にあります。 博物館の展示もいろいろとあるのですが、まずは展示室を抜けて先に向かうと

なんと断崖絶壁からの絶景を眺めることができます。

長城はここで途絶えているようです。 なお、目の前を流れる川は祁連山脈を水源としているようです。 また、川を渡る橋があり、その上からもこの断崖絶壁を眺めることができるそうです。私は行きそびれて、後から気づきました。。。

博物館にはいろいろと解説などがあるのですが、このジオラマが嘉峪関周りの長城関連スポットの位置関係を把握できて一番ありがたかったです。 写真手前が今いる第一墩、中央が関城、奥が懸壁長壁にそれぞれ対応しています。 大雑把に言うと、左側が西で長城の「外側」になるかと思います。

こちらは逆から見たもの。ちょうど山に挟まれた通路のような地を嘉峪関が扼していることが見て取れます。

地上に戻り、第一墩とご対面。

こちらはそのすぐ隣に伸びた長城。北ゲート(入ってきたところ)の方向に伸びています。

近くで見ると、やはり草木は入っていないようです。 ただ、関城の城壁に比べると石が混じっているのが目立つ気もする...?

一通り観光し終えたので、タクシーで市街地に戻りました。17.5元。 翌日行く予定の新城魏晋墓にはバスが出ていないので、ここで翌日のタクシーチャーターをお願いしておきました。

夕食

前日の電車で話した人に「嘉峪関と言えば羊が美味しい」とおすすめされていたので、羊串のお店を高徳地図などで探してこちらのお店に行ってみました。

18時に入店した際にはまだまだ空いていたのですが、食べている間にどんどん客席が埋まり、繁盛していました。 店内に入って思ったのですが、今回の旅でここまで入ったお店では一番きちんとしたところだった気がします。

テーブルの上に置かれた台の上にこのあと羊串が置かれるのですが、なんと内側には蝋燭?がありました。 羊串が冷めないようにということのようでありがたい。

紙ナプキンの箱に描かれているのは、嘉峪関郊外にある新城魏晋墓の壁画のモチーフ。絵の人物が持っているのは羊串と言われています。 ちなみに、新城魏晋墓は翌日見に行きました。

注文はAlipayやwechatのmeituanミニアプリからと言われたのですが、私のmeituanアカウントに問題があって注文できなかったので、店員さんに注文を取っていただきました。

羊肉の串は1ポーション20本(!)でしたが、こちらのお店は半ポーションも可でした。 「半ポーションでも多いかもしれないから、もう半分にできませんか? 料金はそのままで良いので」と相談してみたのですが、「それは申し訳ないし、1本は意外と小さいから食べきれると思いますよ」と言われました。 ということで、羊肉半ポーション10本と羊レバー半ポーション7本、後は野菜炒めと、主食として烤饼を頼みました。 これで65元。

肉もレバーも、臭みもなく柔らかく、味付けも程よい辛さと塩気で美味しかったです。 当初は食べきれるか心配したのですが、美味しくてあっという間にぺろりと食べてしまいました。

テーブルに開いた穴、最初は何かと思ったら、食べ終わった後の串を入れるところでした。うまくできてる。

お店を出るときにはあたりも暗くなっていました。 夏に日が沈んで涼しくなってからテラス席で羊串食べるのも気持ちが良いだろうなーと思いました。 ただ、このときは日が沈むと既に寒いので、テラス席には誰もいませんでした。写真を見返してみたら「天凉请到里面用餐」って書いてありますね。

食後、腹ごなしに少し散歩してホテルに戻りました。

これは散歩中に見つけた、別のお店。

翌日に続きます。 amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

参考文献

  • [1] 大庭脩(2020)「木簡学入門 」志学社 ISBN: 978-4-909868-01-5 (※1984年刊の講談社学術文庫を再刊したもの)
  • [2] 冨谷至(2014)「木簡・竹簡の語る中国古代 : 書記の文化史 増補新版」岩波書店 ISBN: 978-4-00-026859-2
  • [3] 高啓安 著, 高田時雄 監訳, 山本孝子 訳(2013)「敦煌の飲食文化 (敦煌歴史文化絵巻)」東方書店 ISBN: 978-4-497-21205-4

*1:とはいえ、たぶん北方限定だと思います。中国南部ではまた違ったはず。

*2:[1]p.46, [2]p.85

*3:用語があっているのか自信がないです。