9月の河西回廊の旅で木簡や石刻(石碑や墓誌など)をいくつも見て「古代漢語(いわゆる「漢文」)を読んでみたいなー」という思いが強まったので、はじめの一歩として王力「古代汉语常识」を神保町の内山書店で購入しました*1。
裏面の説明を見ると、古代漢語の入門者のために、王力の書いた文章を集めて編集した本のようです。 想定読者は小学生~高校生のようで、比較的平易な文体の中国語で書かれていたので、それほど苦労せずに読めました。 ただし、後半1/3くらいは読んでいません。
書誌情報など
- 著者 : 王力
- タイトル : 古代汉语常识
- 出版年 : 2020年
- 出版社 : 中华书局
- ISBN : 978-7-101-14686-8
簡体字、横書きです。 目次は出版社の公式ページ(「图书目录」の箇所)または豆瓣读书のページなどに記載があります。
なお、これは2020年に中华书局から出版されたものです。 他の年の他の出版社によるものもいくつかあり、ざっと調べた限りだと章立てが異なるものもあるようです。
内容と感想など
漢語の歴史の概観や古代漢語を学ぶ理由や学習の心構え(?)などから始まり、現代漢語と古代漢語の語彙や文法の違いなどを具体例を交えながら説明し、最後の方では暦法の話まで扱っています*2。
心構えの箇所では「常用単語は1000-1200くらい。頻出単語だけ覚えればよく、マニアックなものを無理に覚えなくて良い。」「一見簡単な文字や単語ほど、辞書を引かずに分かった気になってしまい、誤った意味で解釈してしまいがちなので、要注意。」「古代漢語で書かれた文書を、ある程度の量は読むべし。ただし、精読が大事。初学者はいきなりたくさん読まなくて良い。まずは中学/高校の教科書の古代漢語の文章を読む。」(超ざっくりした要約)あたりが印象に残りました。当然と言えば当然の話ですが、勉強する前に釘を刺してくれるのはありがたい。
語彙や文法については現代漢語との違いを具体例も交えていて、重点的に解説していました。 たとえば、
- 「再」は上古では「二回」「第二回」を意味し、「またもう一度」という意味はない。たとえば、「五年再会」と書いたら、「5年の間に2回会う」という意味で、「5年後に再び会う」という意味ではない。ただし、唐宋以降は現代と同じ意味でも用いられる*3。
- 通常は動詞と目的語は「{動詞}{目的語}」の順番だが、否定文中で、目的語が代名詞のときは「{目的語}{動詞}」の語順になる*4。
などなど*5。 特に、よく使われる虚詞18個の意味をまとめて解説した部分*6は、読解などで詰まったときに見返すと役立ちそうです。
ただ、もともと別個に書かれた文章を集めてきたためか、異なる章の間で内容に重複がそこそこ見られます。また、元々書かれた年代が古い(著者は1980年代に亡くなっている)ため、注意が必要かもしれません。たとえば、新しい工具書*7に言及はありません。
「現代漢語はある程度できて、古代漢語を学びたい」という私にとっては、気軽に読んで得るところがあった本だと思います。 ただし、上に書いたように体系だった教科書として編まれたものではないので、お薦めできる本かどうかはよくわからないです。
この後何を読むか
上にも書いた通り、「まずは中学・高校の教科書の古代漢語の文章を読むべし」と言われているのですが、ネイティブほどは現代中国語ができるわけではない*8ので、もう少し敷居を下げて(?)千字文あたりからかなー、と考えています。
具体的には、古勝隆一先生の文言基礎の千字文をコツコツと進めたいと考えています。 xuetui.hatenadiary.org
ゆくゆくは「古代汉语」と銘打たれたような教科書にも手を出してみたいです*9。 「古代汉语」と題した教科書は数多いのですが、こちらの知乎には13冊を比較した長大な記事があり、参考になるかもしれません : 【书荐】十三版《古代汉语》教科书简要对比
*1:少なくとも中国の文献史料を読むなら漢文訓読を経由しなくて良いのではと思ったので、漢文訓読を経由せずに中国語で学ぶことにしました。王力「古代汉语」などは自分にはまだ読めなさそう。。。
*3:以上、七,古代汉语的词汇(一)古今字义的差别 p.75より。他にも10個くらいまとめて解説してくれています。
*4:八,古代汉语的语法(二)词序 p.101~p.102より。
*5:このへん、きちんと漢文を勉強した方には「当たり前やん」と言われそうですが、高校のときの漢文の記憶があまり残っていない。。。
*6:八,古代汉语的语法 (三)虚词 p.103~p.124。解説している文字/単語は 而,夫,盖,乎,其,是,所,为,焉,耶,也,以,矣,与,哉,则,者,之。
*7:たとえば古汉语常用字字典
*8:単一の文字で出てきたときの意味の理解や、声調が怪しい文字が多い。
*9:とはいえかなり分厚い教科書が多いので、実際に読めるかは自信がない。。。