世界史ときどき語学のち旅

歴史と言語を予習して旅に出る記録。西安からイスタンブールまで陸路で旅したい。

2024年新疆旅の予習・復習に読んだ本のメモ

旅そのもののまとめはこちら amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

過去の旅で読んだ中国史・中央ユーラシア史の本の中にも、今回の旅に関係が深いものもありました。

amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

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全般

中央ユーラシア文化事典

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b304929.html

これまでの旅行記でもたびたび引用するなどお世話になっている本です。 この本の概要については、ウズベキスタン旅行の予習のところに書いたのでそちら参照。

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今回はこのへんを拾い読みしました : 「張騫と班超」「玄奘と求法行歴僧」「千仏洞の仏教壁画」「唐の中央ユーラシア支配」「ウイグル」「ウルムチ」「カシュガル」「トルファン」「クタドゥグ・ビリグ」「古代中央アジアの言語と文字」「ウイグル文字」

中央ユーラシアを知る事典

www.heibonsha.co.jp

  • 著者 : 小松久男, 梅村坦, 宇山智彦, 帯谷知可, 堀川徹 (編)
  • 出版社 : 平凡社
  • 出版年 : 2005
  • ISBN: 9784582126365

同じくこちらもたびたび引用させてもらっています。 上の中央ユーラシア文化事典とは異なり、こちらは小項目主義。 読み物というよりは調べもの向けで、旅行記を書くにあたって細かい点を確認するときに役に立ちました。

シルクロード1万5000キロを往く

  • 著者 : 今村遼平, 中家惠二, 上野将司(編著)
  • 出版社 : 古今書院
  • 出版年 : 2021
  • ISBN : 978-4-7722-4225-7(上巻), 978-4-7722-4226-4(下巻)

www.kokon.co.jp

www.kokon.co.jp

古今書院*1の雑誌 月刊「地理」に連載された旅行記を書籍化したもの。 編著者らは地理学のバックグラウンドを持つ方が多めです。 今回の旅は基本的に文化や歴史メインのつもりだったのですが、実際に旅した際に乾燥した大地や白い峰々などの雄大な自然の景色を目にして新疆の自然にも興味が湧いたので、復習に読んでみました(主に今回の旅の範囲に関する部分を拾い読み。)。

期待通り、旅行記とは言え地形や地質への言及が多く、歴史系の本などとは違う視点が興味深かったです*2。 のほほんとした旅行記だなーと思って読んでると自然地理学の用語が突然ぽんぽん出てくるというギャップも面白い。

自分も見えていたはずなのに気づかなかった/意識してなかったことが多かったことが多かったなと気づかされます。 たとえば、

  • 天山山脈の麓では扇状地が発達し、扇端は伏流していた地下水が湧き出るオアシスとなっている、ハミはその一例。
  • トルファンでは、火焔山を横切る河沿いに河成段丘が発達している。
  • 扇状地の色の違いで、その堆積物がどの山(手前の山なのか、もっと奥の山なのか)から流れてきたものかが推測できる。

などなど。

知識や物の見方を身に着けると旅はもっと面白くなるなと改めて思ったので、これを機に自然地理学の知識もつけたいと思いました (これは素人考えなのですが、乾燥地帯は日本と違って植生が乏しいので、大地の形や色などが直接分かって地形や地質の観察がしやすそう)。

シルクロード」を旅した人々

シルクロードの開拓者 張騫

  • 著者 : 田川純三
  • 出版社 : 筑摩書房
  • 出版年 : 1991
  • ISBN : 4-480-05162-7

注: 2024年に講談社学術文庫から再刊されています。が、最寄りの図書館になかったので、筑摩書房のものを読みました。 bookclub.kodansha.co.jp

張騫の伝記本。著者は、NHKの番組「シルクロード」のチーフディレクター(中国文学科卒業)です。

主に「史記」「漢書」などに依拠しながら、張騫の旅を中心に、シルクロードの交易、漢の西域との関係などについて紹介しています。 著者は専門の学者ではないものの、「漢書」や「史記」をはじめとした文献が多数引用されています。 張騫の大月氏烏孫への遣使は概要だけは知っていたのですが、実は四川からインドに抜ける西南路の探検にも関わっていたり、かと思えば大月氏からの帰国後、軍の指揮官の職にあったときの失敗から処刑されかけたりした話などは知りませんでした。

また、著者が取材した際の経験についての記述も随所にあり、非常に興味深かったです(今となっては貴重な情報かも)。(e.g.)黄河上流での「現在」の渡河方法として羊皮筏子を挙げていて、書きぶりからして著者も実際に乗ったように読めます(p.62)。あとは取材当時の中巴公路は未舗装の山道が多く、落石に遭ったりもしたとのこと(p.83)で、先日自分が走ったときはめっちゃ綺麗に舗装・整備されてたので大違いだなーと思ったりしました。

ただ、著者が想像力をたくましくして描写したと思われる部分(e.g. 張騫が武帝に謁見した際の様子 p.44)も多く、内容の正確性についてはちょーっと留保が必要かもしれません。 加えて、話の脱線が多い点は向き不向きがあるかもしれません。(e.g.)張騫のエピソードから連想される中国の故事に跳んだり。

張騫とシルク-ロード 新訂版

www.shimizushoin.co.jp

こちらは東洋史学者の手による本。同著者の本は、講談社学術文庫の「シルクロード」を読んだことがあります。

扱う話題は上の「シルクロードの開拓者 張騫」と重複が多いですが、こちらは記述が落ち着いていて私には読みやすかったです。 加えて、巻頭には地図、巻末には年表が掲載されており、位置関係や時間の前後関係などを確認したいときは便利でした。 先行研究を紹介している個所も複数あり、議論の様子を垣間見れた点も興味深かったです。 また、こちらの方が前掲書よりも射程がやや広いように感じました。たとえば、「漢書」西域伝に記された国々の情報が詳しく紹介されていたり(p.175~)。

ただ、元となった本が1984年出版のもので、そのさらに元となった本が1972年出版、ということもあってか、若干内容に古さを感じました。 具体的には、出土文献への言及が極めて限定されている(p.116あたりくらい?)点と、それゆえか「シルクロード」という用語法に留保や躊躇がない*3ところが引っ掛かりました*4

玄奘三蔵シルクロードを行く (岩波新書)

www.iwanami.co.jp

玄奘三蔵の生涯と足跡を、「大唐西域記」「大唐大慈恩寺三蔵法師伝」などの文献をもとに辿った伝記です。 玄奘の記述に基づいて当時の旅の様子を生き生きと伝えると同時に、各都市に至ると他の史料や近代の発掘の結果についても論じ、この長大な旅を複数の視点から眺めることができます。

だいぶ前に一度読んだのですが、内容をほぼ忘れたので再読。 今回は新疆に関わる部分だけ拾い読みしようとしたのですが、復路については省略されているようなので、冒頭の2章だけ読みました。(だいたい西域北道/天山南路に沿う形の旅程で、ハミ、トルファン、クチャあたりを経由しています。)

出土文献関連

西域文書からみた中国史

www.yamakawa.co.jp

  • 著者 : 關尾史郎
  • 出版社 : 山川出版社
  • 出版年 : 1998
  • ISBN : 4-634-34100-X

世界史リブレットの1冊です。敦煌トルファンなどから出土した文献のうち漢文で書かれた文書を扱います。 冒頭、まえがきにあたる章で1枚の唐代の「納税証明書」を提示し、そこからわかることを手短に語っているのですが、なんともワクワクする導入でした。 その後、文書史料の出土背景や性質などを概観した上で、これらの文書から分かることを論じています。「納税証明書」は公的なものだったのかとか、戸籍などの書類から均田制の実態について論じたりなどなど。

図説シルクロード文化史

www.harashobo.co.jp

  • 著者 : ヴァレリー・ハンセン
  • 訳者 : 田口未和
  • 出版社 : 原書房
  • 出版年 : 2016
  • ISBN :978-4-562-05321-6

前書きに「シルクロードにかんする多くの書物とは違って、本書は芸術ではなく文書を中心に扱っている。」と書かれているように、主に様々な出土文字史料に着目して、「シルクロード」の交易や文化交流について述べた本です。 各章は1つの都市(またはオアシス都市国家)に対応しており、扱う範囲は東は西安から、西はサマルカンドまでで、数としてはタリム盆地のオアシスが多いです。 冒頭1章のクロライナ王国についての章と、今回の旅で訪れたクチャ、トルファンの章だけ読みました。

前書きにも宣言されている通り、史書だけからは分からない現場寄りの情報が出土文献から得られる点が面白く読んでいてワクワクしました。(e,g,)通行証などの文献からキャラバンの規模(人物や動物の数)の情報が得られたり(p.117)、取引の課税記録からオアシス都市で売買された品物を知ることができたり*5(塩化アンモニウムが頻繁に取引されてるらしい?)(p.148)、場合によっては複数の文献をつきあわせてある個人の旅程まで分かったり(p.151)。 加えて、2章のクチャの章で語られていた、往時のタリム盆地の言語環境も言語好きとして気になります。 あとは、あまり本筋に関係ないですが、安禄山などの「禄山」という名前は、「「明るい」「光」「輝く」を意味するソグド名の「ロクシャン」を中国語にしたもの」(p.149)という話も印象に残りました。 また、ところどころスタインやヘディンの旅行記の描写もさしはさまれ、現代のような移動手段がない時代に当地を行き来した人々の苦労も偲ばれました。

なお、日本語タイトルがあまり内容を表わしておらず*6、原題の"The Silk Road A New History"の方が内容を適切に表しているかと思います。

また、細かいところで内容が不正確/誤解を招くように感じられたところがあり、本書の内容信頼性についてはやや自信がないです*7。具体的には、

仏教関連

仏教遺跡を何か所か訪れたのですが、日本以外の仏教の流れや経典の体系など全然知らないなと思ったので、仏教史の本を何冊か読んでみました。

こちらは別記事に書きました。

amber-hist-lang-travel.hatenablog.com

*1:地理で有名な出版社。と勝手に思ってます。

*2:なお、この本の地理以外の部分についての信頼性は分かりません。

*3:p.225「シルク-ロードは、やはり、シルク、すなわち絹の西漸の道だったのである。」

*4:近年の研究だと絹が主要な貿易品ではない、という話もけっこうあるので。「図説シルクロード文化史」参照

*5:このへんは山川世界史リブレット「オアシス国家とキャラヴァン交易」にも書いてあったかも。

*6:「図説」というほど図が多いわけではない。

*7:著者はその道の研究者のようなのですが。。。原著を確認していないので、これが原著の記述に起因するものは翻訳に起因するものかは分からないです。